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悪意に満ちた世界における「臼」~森絵都『最後は臼が笑う』感想~

とにかく、さっと読んでさっとブログを書いて、さっと寝よう。
そのために、短いものを。
そんな理由で選択したのがこちら。



内容紹介
とてもひねりの効いた、一筋縄ではいかない大人のための恋愛短編。
確かに女と男は〝出会う〟のだが、そこから先が尋常ではない。
幸せの形は人それぞれとは言うものの……。

ヒロインは公務員の桜子、39歳。
人生このかた、ろくでなしの悪い男にひっかかり続けてきた関西人。
妻子持ちに騙され、借金持ちには貢がされ、アブノーマルな性癖持ちにいたぶられる。
ところが、桜子は「ろくでなしや、あかん奴や言われとる男に限ってな、どっかしら可愛いとこを持っとるもんなんや」と公言し、好んで吸い寄せられていく。
高校時代からの友人の「私」は、悪弊の連鎖を断つべく有志を募り、「桜子の男運を変える会」まで結成したが、当人は我関せずだから、どうしようもない。

ところがある日、解散して早十年を数える会に、桜子から緊急招集がかかる。
「一分の隙もない完全な悪」にとうとう出会ってしまったのだという。
〝完全な悪〟とはいったい何者か?

著者について
森 絵都(もり・えと)
東京都生まれ、早稲田大学卒。1990年、『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞してデビュー。1995年、『宇宙のみなしご』で第33回野間児童文芸新人賞と第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞するなど、児童文学の世界で高く評価され、数々の賞を手にし、人気作家となった。中でも水泳の飛び込み競技を題材にした青春小説の長編『DIVE!!』(2000~)は4冊が刊行される人気シリーズとなった。初めて一般向け分野に挑戦した長編『永遠の出口』(2003)がベストセラーになり、2006年、短編集『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞。2017年には、塾経営者の半生を描いた長編『みかづき』で中央公論文芸賞を受賞した。他の作品に1995年に起きた阪神・淡路大震災の直前を描いた長編『この女』、『漁師の愛人』『クラスメイツ』等がある。


これは、何とも。
正直、私は楽しめなかった。
痛快、と思えばいいのかもしれないが、そこに至るまでがつらい。
こんな嫌な人って、本当にいそう。
でも、いてほしくない。
最後に天誅がくだるにしても、悪意に満ちた人間像をわざわざフィクションでまで読まなくていいかな。
現実世界に山のようにいるし、自分にだってあるし。
――まあ、しかし、「臼」だな。
悪意に満ちた世界で、「臼」であること、「臼」を見つけること、みんなで「臼」になること。
そういう教訓を得た、としておく。

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突き抜けた面白さ~森絵都『無限大ガール』感想~

本日は、こちら。



内容紹介
こうと決めたら猪突猛進!
眩しいぐらいまっすぐな高校生女子が大活躍する、爽やかで甘酸っぱい青春小説の短編。

高校二年生の相川早奈(あいかわ・さな)は「日替わりハケン部員」。
きょうはテニス部、あすは水泳部、ソフトボール部、園芸部に写真部……。
頼まれれば、臨時の助っ人として参加する。
去秋、重要な試合を翌日に控え、レギュラーが捻挫したバレー部の友達に泣きつかれたのがきっかけだった。
父親の長身と母親の器用さを受け継ぎ、運動神経に恵まれた早奈は以来、ひっきりなしにくる依頼に喜んでこたえ、〝ハケン〟を楽しんでいた。

次に早奈に舞い込んだのは、演劇部部長からのSOS。
10月末の文化祭でミュージカルを上演するのに、主演女優が演出家ともめて急遽降板し、代役をと懇願する。
その演出家こそ、昨夏、早奈がたった4カ月だけの交際でフラれた元カレの先輩・藤見(ふじみ)だった!
失恋の痛みを引きずる早奈は引き受けるか、悩むが……。

著者について
森 絵都(もり・えと)
東京都生まれ、早稲田大学卒。1990年、『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞してデビュー。1995年、『宇宙のみなしご』で第33回野間児童文芸新人賞と第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞するなど、児童文学の世界で高く評価され、数々の賞を手にし、人気作家となった。中でも水泳の飛び込み競技を題材にした青春小説の長編『DIVE!!』(2000~)は4冊が刊行される人気シリーズとなった。初めて一般向け分野に挑戦した長編『永遠の出口』(2003)がベストセラーになり、2006年、短編集『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞。2017年には、塾経営者の半生を描いた長編『みかづき』で中央公論文芸賞を受賞した。他の作品に1995年に起きた阪神・淡路大震災の直前を描いた長編『この女』、『漁師の愛人』『クラスメイツ』など。Kindle Singlesには「最後は臼が笑う」がある。


これは、何とも痛快な作品だった。

自分というものがよく分からない女の子が、流されながらも自分探しをしていく。
しかしその中で思いも寄らぬ展開があり、予想外の方向へ話は転がっていく。
何とも、リアリティーを超えた、突き抜けた面白さがあった。

ぐいぐいと読者を引っ張っていく力。
強引だなと思いながら、主人公と共に呑み込まれていく。
こういう作品を書けるのは、自己信頼なのか、勢いなのか、あるいはもっと別な、例えばサービス精神なのか。

疾走感のある作品だった。

松宮宏『まぼろしのパン屋』感想

さて。
今夜は、こちらを読んだ。



内容紹介
朝から妻に小言を言われ、満員電車の席とり合戦に力を使い果たす高橋は、どこにでもいるサラリーマン。
しかし会社の開発事業が頓挫して責任者が左遷され、ところてん式に出世。
何が議題かもわからない会議に出席する日々が始まった。
そんなある日、見知らぬ老女にパンをもらったことから人生が動き出し……。
他、神戸の焼肉、姫路おでんなど食べ物をめぐる、ちょっと不思議な物語三篇。
【解説】大森望

内容(「BOOK」データベースより)
朝から妻に小言を言われ、満員電車の席とり合戦に力を使い果たす高橋は、どこにでもいるサラリーマン。
しかし会社の開発事業が頓挫して責任者が左遷され、ところてん式に出世。
何が議題かもわからない会議に出席する日々が始まった。
そんなある日、見知らぬ老女にパンをもらったことから人生が動き出し…。
他、神戸の焼肉、姫路おでんなど食べ物をめぐる、ちょっと不思議な物語三篇。


確かに不思議な物語だった。

3つの短編が納められているが、特に表題作の「まぼろしのパン屋」が、食べ物的にも好きだ。
誰しも一度はあるのではないだろうか、「パン屋さんになる」ことに。
私など、未だにふっと「今からでもパン屋になれないだろうか」と思ってしまう瞬間がある。
憧れの職業の一つだ。

ビジネス小説のような、ユーモア小説のような、加えてファンタジー要素は確実にあって。
心温まる物語の味わいに、内海隆一郎を思い出した。
テイストは異なるかもしれないが、巻末の解説にあった言葉を借りれば「人情噺」という点では共通する。

「不思議な物語」と書いたが、「不思議」の意味はひととおりでない。
一つにはファンタジー的という普通の意味だが、もう一つには、ちょっと信じられないような展開が続いても、「いやいやそううまくはいかないだろう」とはなぜか思わない。
不思議な説得力がある。

3編は、それぞれ別の世界、別種のキャラクターたちが描かれ、いずれも実話か体験談かと思えるリアリティーに富んでいる。
この創作力はどこから来ているのだろう。
これまで知らなかったが、面白い作家さんだ。

高野史緒『グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行』を読んで

久々の更新だ。
久々すぎる更新だ。
今日の昼間、ある人から、自分は一日一冊、本を読むことを戒にしていて、もう二年ぐらいになる、と言われた。
つまりは何事かを成そうとするならば、まずその程度の努力をしてみせよ、というわけだ。
……なるほど。
というわけで、本日はキンドルにてこちらを読んだ。



内容紹介
ある夏の夕、かの有名な飛行船「ツェッペリン号」が現代日本の空を悠然と航行する――ありそうもないおとぎ話を、精密且つ繊細に描いてみせるSF中編。

女子高校生・夏紀は、母親の生まれ故郷である土浦を訪れた。約90年前の1929年8月、当時、世界最大の飛行船だった「グラーフ・ツェッペリン号」は史上初の世界一周飛行の途中、ここ土浦にある霞ヶ浦海軍航空隊基地に寄港した。

ところが、夏紀には小学生の頃、祖母の葬儀のために来た当地で、確かに巨大な飛行船を見た記憶があった。その話を聞いた従兄の登志夫は、量子コンピュータに接続した拡張現実装置を夏紀に装着させ、もう一度現れるはずのツェッペリン号を追跡しようとするが……

時間はまっすぐに流れるのか? 真実は常にひとつなのか? 刺激的な思索に満ちた野心作。

著者について
高野 史緒(たかの・ふみお)
1966年、茨城県土浦市生まれ。お茶の水女子大学人文科学研究科修士課程終了。1995年、第6回日本ファンタジーノベル大賞最終選考作『ムジカ・マキーナ』でデビュー。2012年、『カラマーゾフの妹』で第58回江戸川乱歩賞を受賞。主な長編作品に、『カント・アンジェリコ』『赤い星』『翼竜館の宝石商人』等がある。Kindle Singles ではジョン・グリビン著『ビッグバンとインフレーション:世界一短い最新宇宙論入門』を翻訳している。


この著者の作品を読むのは初めてだった。
まず文体が、これまで私の読んだことのないタイプのもので、何というか、全編がポエムのような感じと言おうか。
読んでいて心地よい、ふわふわとした感覚がずっと続いていく。
著者のつくり出す不思議な世界をしばしたゆたうのは、悪くないひとときだった。
みずみずしくて、若い人が書いたのかなと思いきや、私と同年代であることが分かった。
うーむ。
やはり作家という人種はすごいものだ。

さて明日以降もこのにわか読書熱は続くや否や。
乞う、ご期待。

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